「なるべく広くて大きな家にしたい」とおっしゃるお客さんは多いです。
なぜ広さが必要なんでしょうか?
それは建物の面積が小さいと、狭く感じてのびのびと過ごせないからだとお考えだからだと思います。
でも小さな家では、のびのびと暮らせないものでしょうか?
小さな家、コンパクトな家にはメリットもたくさんあります。
- 掃除の手間が少なく済む
- 家族の気配を感じやすい
- 暖房費などのランニングコストが抑えられる
- 工事金額が安い
- メンテナンスが行き届く
などなど。
但し、全体の面積が小さい分、より設計が大事になってきます。
小さくてもそれを感じさせない工夫や、所有するものをきちんと収納しきるだけのスペースを確保する必要があるからです。なにより、狭くて暮らしずらいなんてことになったら本末転倒ですからね。
空間の広さは数字で考えるものではなく、感じるものです。
平面的な面積が同じでも天井が高くなれば広く感じるし、低くなると狭く感じます。
同じように面積が同じ部屋でも、窓の有無、窓の大きさ、窓の外に広がる外の様子によっても感じ方が変わります。
また、よく家中の各部屋の天井高さがまったく一緒という物件も見かけますが、トイレにそんなに高い天井が必要でしょうか?洗面所は?キッチンは?でもみんながくつろぐリビングは高い方がいいですよね?
そして実際にはそんなに高くなくても天井の高さに変化をつけることで、実際の数字以上に開放感を感じることもできます。
この住宅は、アトリエを併設した僕たちの自邸の平面図ですが、住宅部分は25坪です。リビングは平面的にみると極端に狭く見えます…よね?(笑)※図中、「L」の部分がリビングです。
これは同じ建物の立面図と断面図です。平面的に極端に狭いリビングの天井は吹抜になっていて、天井高さは約5.8Mもあります。また、ここに一番大きな窓をつけて視線を中庭まで抜けさせているので、過ごしていても閉塞感はありません。
逆にキッチンやダイニングなどのその他の部屋は天井高さを2.15Mに抑えています。特にダイニングは「籠る」感覚で食事をするので、とても落ち着いて過ごすことができます。お酒も進みます(笑)
また、特に小さな家は動線や各室の繋がりに配慮が必要です。壁でそれぞれをぶった切るよりは、なんとなくゆるやかに仕切るような「余白」をつくりながら繋げてあげることでちょうどいい距離感が生まれていきます。
余談ですが、僕たちはこの家をつくる前に一軒家の住宅を借りて住んでいました。その家は40坪以上、4LDDKKという形式の半二世帯住宅のような大きな家でした。
今の住宅が完成し、引っ越した後、うちの長男が「この家は広すぎる!」と文句を言うようになりました。前の家の約半分の大きさなのに、です…(笑)
これを聞いて、何坪とか、何LDKというものさしは、実際に感じる広さやのびのびとした暮らしには何も関係ないんだな、という事を実感しました。
住宅の大きさ、全体のボリュームはダイレクトに建築工事費に影響します。
大きくなればその分使う材料も増え、職人さんの手間も増えるからです。
お客さんが考える総予算をまず最初にお聞きして、そこから土地代や設計料、各諸費用を引いた残りが建築工事費になります。
そうして算出された金額から、経験をもとに建築可能なボリュームを割り出します。
よほど予算に余裕のある人は別として、大体の方はここで「そんなに小さいんだ…」という印象を持たれるようです。
ただ、こうした工夫を重ねるだけで「コンパクトさ」をメリットにすることができます。僕は「小さい」というよりも「ちょうどいい」サイズ感で住宅をつくることは、とても豊かな暮らしをもたらしてくれると考えています。
大きさ、広さよりも家族の暮らしに寄り添ってくれるのびのびと暮らせる住宅を今後もつくっていきたいと思います。